2019.04.15 小田 菜南子

花田真寿美さん「おしゃれは悪じゃない」。美がアスリートに与える力

スポーツ界に根付く、「美しさ」への偏見とは。自身が高校生時代に感じた外見へのコンプレックスを前に向く力に変えて、現在はスポーツ選手や一般の方へのメイクやファッションのアドバイスを行っている花田真寿美さん。アスリートビューティーアドバイザーという立場から感じる、スポーツ界における「見え方」問題を語っていただきました。

透明感のある肌と、肩の上でキレイにワンカールした黒髪。上品な顔でくしゃっと笑うこの人に、まさか“角刈りニキビ”の過去があるなんて想像もつかない—―。

花田真寿美さんは、アスリートビューティーアドバイザーの道を自ら切り拓き、スポーツ選手にメイク方法や姿勢改善のレッスン、時には食事指導やスキンケア、ファッション講座のコーディネートまでも行っている女性起業家。

外見への自信が内面にも作用して、プレーにいい影響を与えると話す花田さん自身も、かつては容姿に悩みを抱えて、心無い言葉に胸を痛めた一人です。そのコンプレックスを力に変えて、夢を叶えている姿は朝の光を浴びて輝いていました。

 

泣きながら髪の毛を切った高校時代

小学生のころからおしゃれが好きで、髪の毛を伸ばしたり、メイクにも興味がありました。高校は、代々オリンピック選手も輩出するような強豪校ということもあり、すごく厳しい校風というのはわかっていましたし、先輩たちが角刈りにしているのは知っていたのですが、まさか自分も同じ髪型にしなければいけないとは思っていなくて。バドミントン部に入部し、一応ショートカットにはしたのですが、先輩たちに何度も呼び出されて泣く泣く角刈りにしましたね。

思春期なので、顔にニキビもよくできてました。メイクで隠すこともできずにいたら、知らない男子高校生からすれ違いざまに「キモっ」って言われ、落ち込みましたね。「ひとは、見た目で判断するんだ」って。

 

自信がないから素直になれない。恋愛も奥手に

そんな見た目で自分に自信なんて持てないので、恋愛にも消極的でした。その頃、中学時代に付き合っていた元カレが、よりを戻したいと言ってくれていたんです。高校の3年間ずっと、好きだって言い続けてくれていたんですが、私はこんな角刈り姿を見せたくないから一度も会わなかった。

でも彼が大学生になるとき、別の女の子と付き合うという連絡が来て、「あー、私好きだったんだな」って自分の気持ちに気づかされたんです。結局、彼はその時付き合った相手と結婚したようです。

今となってはこの人生でよかったと思っています。思っているけど、もしあのとき自分に自信があったら、角刈り姿でも受け入れてくれたかもしれないって考えちゃいますよね。それはもうわからないことだけど。

自分の外見が内面に、こんなに影響を与えるんだってそのとき思いました。競技には全力で向き合っていましたし、チームは高校選抜団体三位という結果も出しましたが、選手としての目標とは別に、「引退後はきれいになりたい」という目標も持ち始めました。

 

大学在学中にモデル業を本格的に始める

大学でも最初はバドミントンを続けていたのですが、途中で燃え尽き症候群になり、やめました。いざおしゃれできる!という環境になっても、何をしたらいいのかわからないものですね。

今まで100kgのバーベルでスクワットをしていたので、デニムも履けないくらい太ももの筋肉が大きくて、服選びも大変でした。しかも部活時代と同じ量を食べていたら7kg太ってしまったので、まずはダイエットをしつつ、自分磨きをしようと。

大学3年生から、スカウトをきっかけにモデルを始めました。ショー、TV、ラジオの仕事もありましたし、愛知県の観光PRとして全国を回らせていただいたりと、本当にいい経験をさせていただきました。それまでは大学を出たら一般企業に就職するのが当たり前だと思っていたのですが、卒業後も名古屋でモデルを続けさせていただきました。

その後東京に出てきて、自分が身に着けてきた「内面・外面ともに美しくなる方法」を他の人に伝える機会というのも増えていきました。そのなかで見つけたのが、アスリートビューティーアドバイザーという役割だったんです。

 

 

ストイックゆえに陥る自己評価の低さ

アスリートのなかには、「結果が出なかったら自分の価値はない」と考えてしまう人が多いんです。おそらく、普段から数字にこだわって練習や試合に臨んでいるからでしょう。そうした考え方をする方は、引退した途端「もう自分には何もない」と考えるようになります。今まで努力してきたことがゼロに、むしろマイナスになってしまうような感覚です。

本来ならば、個人の価値は競技の成績に左右されるものではないはずです。引退してセカンドキャリアを歩むときにも、今までの努力を自信に変えて、自分の可能性を信じて挑戦してほしい。その背中を押す力が「美しさ」にはあると思っています。メイクをすることで背筋が伸びたり、積極的に行動することで生産性があがったり。一般の学生、社会人の方でも一度は経験がある方も多いと思います。アスリートは“見られる”場が多いので、それだけ効果を感じやすいのではないかと思います。

 

おしゃれはタブー?競技性の違いに違和感も

とはいえ、アスリートがメイクをすることに対して、日本ではまだ理解が追い付いていないのも現状です。競技に集中していない、おしゃれにうつつを抜かしていると言われてしまう。メイクに時間を割くことが惜しいという気持ちもわかりますがむしろ気持ちのスイッチの切り替えになったり自信がついたりすることで、自分自身にとっても、スポンサーにとってのメリットも大きくなるはずなのに、もったいないなと思いますね。

海外ではそのあたりの偏見が少ないので、メイクをしている人も多い。海外大会に参加したり、海外で活躍している日本の選手がそうした海外選手を見て、帰国時にレッスンを受けに来てくれるケースも増えています。ただ、そういった場合でも、レッスンを受けていると公にできないこともあります。

一方で、新体操とかフィギュアスケートの世界ではメイクは当たり前に浸透しているので、大手化粧品メーカーがメイクレッスンをしている様子などがTVや新聞で報じられることもあります。競技に関係なく、「自分を美しく見せること」「美を自由に選ぶこと」への理解が高まればいいなと思いますね。

 

自分の姿が見えない不安。盲目の選手がビューティーレッスンを受ける理由

美しさは、もちろん女性だけのものではありません。当然、障害の有無ともかけ離れた、普遍的な価値観です。ブラインドサッカーの男子選手からレッスンを依頼され、美しい姿勢、スキンケア、パーソナルカラーの講座を開催させていただいたことがあります。彼は、自分で自分の姿は見えないけど、周りから「格好いい」と見てもらえていると思うだけで自信を持ってコートに立てるそうです。記者会見の際にも自然と姿勢がよくなったり、自信を持って受け答えできるようになったりしたようで、美しさがその人自身を内面から輝かせるということをあらためて実感しました。

一方、「見られ方」への意識がマイナスに働いてしまうことも事実です。視覚障害を持つアスリートのサポート団体の方と話をした際、彼らの社会復帰を阻む大きな問題の一つが「自分がどう見られているのかわからないことへの恐怖」だと知りました。障害による不自由さ、ではなく心の問題なんですよね。そこから人とのコミュニケーションが減ってしまい、ひきこもるようになってしまうこともあるようです。その話をきっかけに、オンラインで彼らのメイクやコーディネートを見てアドバイスをするという取り組みを試験的に始めました。

 

自分を追い込む人に伝えたい。「スペシャルな1日×365日」の考え方

メイクやファッションもトレーニングと同じで、努力の一つの形なんです。外見がかわいい、格好いいことが大事なのではなく、あくまで自分に自信を持つための手段の一つ。わたしがモデルを始めたころから大切にしている言葉に、「スペシャルな1日×365日」というのがあります。これは、楽しいことや面白いことが起きるのを受け身で待つのではなく、何をしたら楽しいのか、そのためにまず何から始めたらいいのか、を考えて行動することで、毎日を前向きに捉えていこう、という意味が込められています。

スポーツを、特に部活から続けていると、指導者からの言葉や応援してくれる人の目を気にしすぎてしまうこともあると思うのですが、何より自分の人生の舵は自分で取るという意識を持つことが大事なんじゃないかなと思います。アスリートビューティーアドバイザーという仕事を通じて、少しでもそういう気持ちになれる人を増やしていきたいです。

 

 

取材中、インタビュアーの頬に手を伸ばして肌の様子をチェックしてくれた花田さん。職業病ですみません、と笑う表情に、この仕事への誇りとやりがいを感じました。

アスリートのメンタルトレーニングへの関心や理解は高まっているなか、「メイク」「ファッション」がその方法の一つとして認められるには、まだ時間がかかるのかもしれないと話す一方で、少しずつ理解者が増えている手ごたえも感じている様子。4月には一般社団法人日本アスリートビューティー協会を発足させ、今後はアスリートビューティーアドバイザー育成と新しい職業としての確立を目指していくそう。花田さんの今後のスポーツ界での活躍に期待が高まります。