2019.04.15 小田 菜南子

アスリートの美しさを更に引き出す。花田真寿美さんが伝える美の力(2/2)

自身が高校生時代に感じた外見へのコンプレックスを前に向く力に変えて、現在はスポーツ選手や一般の方へのメイクやファッションのアドバイスを行っている花田真寿美さん。アスリートビューティーアドバイザーという立場から感じる、スポーツ界における「美しさ」への偏見とは。

 

ストイックゆえに陥る自己評価の低さ

アスリートのなかには、「結果が出なかったら自分の価値はない」と考えてしまう人が多いんです。おそらく、普段から数字にこだわって練習や試合に臨んでいるからでしょう。そうした考え方をする方は、引退した途端「もう自分には何もない」と考えるようになります。今まで努力してきたことがゼロに、むしろマイナスになってしまうような感覚です。

本来ならば、個人の価値は競技の成績に左右されるものではないはずです。引退してセカンドキャリアを歩むときにも、今までの努力を自信に変えて、自分の可能性を信じて挑戦してほしい。その背中を押す力が「美しさ」にはあると思っています。メイクをすることで背筋が伸びたり、積極的に行動することで生産性があがったり。一般の学生、社会人の方でも一度は経験がある方も多いと思います。アスリートは“見られる”場が多いので、それだけ効果を感じやすいのではないかと思います。

 

おしゃれはタブー?競技性の違いに違和感も

とはいえ、アスリートがメイクをすることに対して、日本ではまだ理解が追い付いていないのも現状です。競技に集中していない、おしゃれにうつつを抜かしていると言われてしまう。メイクに時間を割くことが惜しいという気持ちもわかりますがむしろ気持ちのスイッチの切り替えになったり自信がついたりすることで、自分自身にとっても、スポンサーにとってのメリットも大きくなるはずなのに、もったいないなと思いますね。

海外ではそのあたりの偏見が少ないので、メイクをしている人も多い。海外大会に参加したり、海外で活躍している日本の選手がそうした海外選手を見て、帰国時にレッスンを受けに来てくれるケースも増えています。ただ、そういった場合でも、レッスンを受けていると公にできないこともあります。

一方で、新体操とかフィギュアスケートの世界ではメイクは当たり前に浸透しているので、大手化粧品メーカーがメイクレッスンをしている様子などがTVや新聞で報じられることもあります。競技に関係なく、「自分を美しく見せること」「美を自由に選ぶこと」への理解が高まればいいなと思いますね。

 

自分の姿が見えない不安。盲目の選手がビューティーレッスンを受ける理由

美しさは、もちろん女性だけのものではありません。当然、障害の有無ともかけ離れた、普遍的な価値観です。ブラインドサッカーの男子選手からレッスンを依頼され、美しい姿勢、スキンケア、パーソナルカラーの講座を開催させていただいたことがあります。彼は、自分で自分の姿は見えないけど、周りから「格好いい」と見てもらえていると思うだけで自信を持ってコートに立てるそうです。記者会見の際にも自然と姿勢がよくなったり、自信を持って受け答えできるようになったりしたようで、美しさがその人自身を内面から輝かせるということをあらためて実感しました。

一方、「見られ方」への意識がマイナスに働いてしまうことも事実です。視覚障害を持つアスリートのサポート団体の方と話をした際、彼らの社会復帰を阻む大きな問題の一つが「自分がどう見られているのかわからないことへの恐怖」だと知りました。障害による不自由さ、ではなく心の問題なんですよね。そこから人とのコミュニケーションが減ってしまい、ひきこもるようになってしまうこともあるようです。その話をきっかけに、オンラインで彼らのメイクやコーディネートを見てアドバイスをするという取り組みを試験的に始めました。

 

自分を追い込む人に伝えたい。「スペシャルな1日×365日」の考え方

メイクやファッションもトレーニングと同じで、努力の一つの形なんです。外見がかわいい、格好いいことが大事なのではなく、あくまで自分に自信を持つための手段の一つ。わたしがモデルを始めたころから大切にしている言葉に、「スペシャルな1日×365日」というのがあります。これは、楽しいことや面白いことが起きるのを受け身で待つのではなく、何をしたら楽しいのか、そのためにまず何から始めたらいいのか、を考えて行動することで、毎日を前向きに捉えていこう、という意味が込められています。

スポーツを、特に部活から続けていると、指導者からの言葉や応援してくれる人の目を気にしすぎてしまうこともあると思うのですが、何より自分の人生の舵は自分で取るという意識を持つことが大事なんじゃないかなと思います。アスリートビューティーアドバイザーという仕事を通じて、少しでもそういう気持ちになれる人を増やしていきたいです。

 

 

取材中、インタビュアーの頬に手を伸ばして肌の様子をチェックしてくれた花田さん。職業病ですみません、と笑う表情に、この仕事への誇りとやりがいを感じました。

アスリートのメンタルトレーニングへの関心や理解は高まっているなか、「メイク」「ファッション」がその方法の一つとして認められるには、まだ時間がかかるのかもしれないと話す一方で、少しずつ理解者が増えている手ごたえも感じている様子。4月には一般社団法人日本アスリートビューティー協会を発足させ、今後はアスリートビューティーアドバイザー育成と新しい職業としての確立を目指していくそう。花田さんの今後のスポーツ界での活躍に期待が高まります。

 

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